【英語のギモンを理解する vol.2】islandとpeninsulaの自明に見えて全然自明でない繋がり

islandとpeninsula、「島」と「半島」ですね。islaあたりがちょっと似てるし、語源は同じかもしれないと思ったあなた、鋭いですね。でもそれだけではありません。厳密には語源は異なっていて、もうちょっと紆余曲折あるのです。

islandの発音はカタカナで書けば「アイランド」。綴りに発音しないsが含まれているので、中学生の頃に「イスランド」とかって感じで綴りを覚えた人もいるんじゃないでしょうか?(わたしだけ?)

でもこのsってなんで発音しないんでしょうね?英語を勉強していくと発音しない文字を含む語はたくさん出てきますから、だんだんと「そういうもの」として覚えていったと思いますが、今回はそんな「発音しない文字」についての素朴な疑問から出発してみましょう。

「islandとpeninsulaにはどのような繋がりがあるのか」「islandにはなぜ発音しないsが含まれているのか」この全く異なるように見える疑問には、実は同じひとつの回答を与えることができるのです。それでは考えていきましょう。

「発音しない文字」はなぜ存在するのか?

island「島」という単語には、発音しないsが含まれています。
英単語の中には他にも、know「知っている」のkや、climb「登る」のbなど、発音しない文字を含む単語がありますね。

knowのkやclimbのbなどについては、実は単純な話で、「昔はそのように発音していたから」というのが理由です。今では「ノウ」「クライム」のように発音していますが、中世~近代初頭ごろには「クノウ」「クリームブ」などと発音していたのです。
それが、おそらく発音のしやすさのためだと言われていますが、だんだんとkやbの音が発音されなくなっていき、綴りのみにkやbが残されたため、このような「発音しない文字」が生まれたのです。

では、似た綴りをもつthumb「親指」も、もともとはbの音を発音していたのでしょうか?
実は、thumbという語に関しては、bの音はあまり発音されることはなかったようです。
bの発音はなかったものの、前述したclimbのような単語の綴りに引っ張られるような形でのちに綴りにbが加えられるようになったのです。

islandの歴史

islandとpeninsulaの形が似ているので、同じ語源を持つのかもしれないという予想を最初に提示しました。
実はこれは英語ではよくあるケースです。(英語に限らずどの言語でもそうかもしれません)

みなさんもいくつか例が思いつくかもしれませんが、たとえばmove「~を動かす」とmobile「動かせる」や、finish「~を終える」とinfinite「限りない」などが挙げられます。
finishとinfiniteは意味が真逆じゃないかと思うかもしれませんが、どちらもラテン語のfinis「末端・終わり」からきています。
finisという単語に、否定の意味をもつ接頭辞 "in-" がつくことでできる単語が、「終わらない=限りない」の意味をもつinfiniteです。
否定の接頭辞 "in-" がついているから、語源は同じでも意味は真逆になるんですね。

ではislandとpeninsulaも同じ語源を持つのかというと、そうではありません。実は、両者の語源は全く異なります。

islandは古英語(4世紀頃から現在のイギリスで話されていた古い英語)由来の単語であるのに対し、peninsulaはラテン語から英語に導入された語です。出自が全然違うんですね。

ちなみにラテン語とは、古代ローマで公用語とされていた言語です。ヨーロッパ世界では、古典ラテン語は学術の分野などで近代まで用いられてきました。また、昔から話されていた英語よりも、ラテン語の方が高尚な感じがすると言う感覚も、英語の世界では中世以来現在までずっと見られるものです。
英語の世界におけるラテン語のとらえ方については、前回の記事(「英語のギモンを理解するvol.1」)でも解説しているので、興味があればぜひ読んでみてくださいね。

さて、islandの語源ですが、古英語(10世紀くらいまでイギリスで話されていた古い形の英語)では、ieglandなどと書かれていました。これは、ie「水、川」+land「土地」という意味の組み合わせで、「水の土地」すなわち「島」を意味していたわけです。

この単語は、16世紀頃にはilandやylandと綴られるようになっていたそうです(発音は「イーランド」みたいな感じ)。その時期になると、英語話者の知識人階級の中で、古典ラテン語やギリシア語を重んじて、それらの言葉が英語よりも高尚であると考える風潮が強まります。古典を重視する、まさにルネサンスですね。
さて、古典ラテン語には、insula「島」という単語がありました。この単語は古英語のielandとは無関係ですが、ルネサンス期英語知識人はそうは考えなかったようです。彼らはilandと言う単語は古典ラテン語のinsulaが元になっていると誤解して、綴りを「復興させる」ために、islandという綴り字を作りました。
現在の日本語においても「ら」抜き言葉の問題などで、「正しくない言葉」と「正しい言葉」について言及されることがありますね。ルネサンス期の知識人は、ilandは「正しくない綴り」で、islandこそが、ラテン語の形を保った「正しい綴り」だと考えたのです。
しかし発音の方はどうかというと、従来通り「イーランド」という、sを含まない発音が行われ続けました。そして「イー」の音が「アイ」と発音されるようになる変化が起こって、現在の「アイランド」という発音ができあがりました。

そういた経緯で、綴りはislandなのに、発音は「アイランド」になるという矛盾が生じてしまったのです。

ちなみに、「イー」の音が「アイ」に変わる変化は、islandという単語だけではなく、英語の単語全体で起こっています(これを英語史では「大母音推移」といいます)。たとえばtimeは古英語の時期には「ティーメ」といった感じで発音されていましたが、同じ時期に「イー」の音が「アイ」に変わり、「タイム」という発音が成立しました。なぜこれが起こったのかというのも英語史上の大きな問題ですが、まだ結論は出ていません。気になった人は調べてみてください。

一方のpeninsulaはというと、これは純粋なラテン語由来の単語です。ラテン語でpaeneは「それに準ずる」と言ったところの意味を持っています。その接頭辞がinsula「島」と組み合わさることで、paene+insula「島に準じるもの」すなわち「半島」の意味ができているのです。

ということで、islandとpeninsulaの関係がわかったと思います。peninsulaは権威あるラテン語の正統なる末裔で、islandはラテン語かぶれのパチモンだということですね。
おそらく20年後くらいの「チコちゃんに叱られる!」でこの問題が取り上げられるだろうと思います。
「ねえ岡村、islandとpeninsulaって形が似てるけど、これってどんな関係があるの?」と尋ねるチコちゃんに対し、世の中の多くの人々は「もともと同じ語源から来た単語だから似てるんだよ」などと答えて叱られることになるでしょうが、皆さんはこう答えられますね。
「islandとpeninsulaはもともと語源も形も異なる単語だったけど、ちょっと似てる形をルネサンス期の知識人が誤解して、peninsulaの語源であるラテン語のinsulaに寄せた綴りに変えた結果、似た綴りになったんだ。だけど発音は変わらなかったから、islandは発音しないsを持つことになったんだ。」

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